お買い物

「ね、このお店来るの久しぶりだね」
「確かに、前に来たのって半年前ぐらいかしら」

二人はいつもの商店街の雑貨屋さんに来ていました。
今日は珍しく天気が良く、アリスはおしゃれしてお出かけできてとっても上機嫌です。
ラッキーもどこか嬉しそうな表情をしています。

「あれ、売ってるといいな」
「どうかしらね」
「ラッキーも探してよ?」
「はいはい、早く入りましょ」

一番の目的は、アリスが大切にしていたスプーンが無くなったのでそれを探すためです。
家中大捜索しても見つからなくて二人で首をかしげたものです。

「こんにちは」
「いらっしゃい、ゆっくり見ていってね」

雑貨屋さん、と言っても実に色々なものが売ってあるお店で前からアリスのお気に入りなのです。
見たこともない異国の輸入雑貨や使い方が全く分からない商品を見てわくわくするのが大好きなのです。
もちろんラッキーも、食べたことのない食品を見るのが楽しみです。

「さて、どこにあるかな…」
「それにしても色んな物が置いてあるわね」
「ラッキー、食器落っことして割ったらだめだよ?」
「分かってるわよ、そんなこと」
「で、スプーンは…あそこかしら」

窓際に沢山並んでいるのを見つけると、アリスは小走りでそこに向かいました。
まるで宝物を見つけたみたいに嬉しそうにしています。

「わ、いっぱい売ってる」
「本当ね、いい店だこと」

大小様々なものが所狭しと並んでいます。
どうやって使うか分からない形状のものも置いてあって二人は興味津々です。

「これかしら」
「えー、こんなのだったっけ?」
「あ、じゃこれかも」
「惜しいけど…なんか違う…」

しばらく物色したものの、どうやら全く同じスプーンは売っていないみたいです。
似ているものはありますがどうしても同じものが良いのです。

「…おんなじのはもう売ってないのかなぁ」

アリスがしょんぼりしながら言いました。
一方のラッキーは…。

「あれ?」
「ラッキー?どこ行ったの?」

さっきまで側にいたのに今みたらどこにも居ません。
アリスは急に不安になったようです。

「もう、勝手に離れたら迷子になるよ…?」

一人ぼっちになったと思うと、とたんに弱気になってしまいました。

「ラッキー…どこ行ったの?」
「ふふ…迷子はどっちかしらね」
「あ!いつのまに!!」

スプーン探しに飽きたようで、一つ隣の売場を眺めていたようです。
安心したアリスがふぅっとため息をつきました。

「ラッキー、あのスプーン売ってないみたいだよ」
「他のじゃ駄目なのかしら」
「だって…あれはお友達にお誕生日プレゼントでもらったやつだから」
「同じのが家にないと無くしたのがお友達にバレるってこと?」
「そっ、そんなこと…あるけど」

そんなことあるけど、という日本語を聞いてラッキーが苦笑いしました。

「大丈夫でしょ、あの子優しいし」
「だけど…うーん」

どうしても諦めきれないようです。
するとラッキーが言いました。

「同じのじゃなくても…例えばこれなんか気に入ったんだけど」
「?」

ラッキーがじっと見つめているスプーンをアリスも同じくじっと見てみます。
コップに入れて並べてある5本のうち、柄の方にキラキラした宝石が付いているものです。
もちろん本物ではありませんが窓から差した陽のおかげでやけに綺麗に見えます。

「…とっても綺麗」
「あら、意外ね」
「おんなじのがいいの!!って言うかと思ったわ」
「これ気に入ったかも」
「ふふ、私も良いと思うわ」

無くしたスプーンの代わりが見つかって一安心していると、別の店員さんがやって来ました。
アリスは思わずドキッとしました。

「いらっしゃい、何探してるのかな?」
「あの、えっと、スプーン探してます…」

知らない人と話すと緊張する癖はいつ治るのでしょうか。
咄嗟にラッキーのほうを見ました。

「(ほら、ラッキーも何か言ってよ!!)」
「(にゃーん)」
「(もう!!ラッキーのいじわる!!)」

ラッキーと目配せしているアリスを見て店員さんが不思議そうにしています。

「えっと、スプーン探してるんだね」
「…はい」
「お気に入りのは見つかったかな」
「あの、それが…」

無くしたスプーンが見つからず、代わりのものを買おうとしていることを言いました。
すると何故か店員さんが嬉しそうな顔をしました。

「そのスプーンって…ひょっとしてこれのことかな」
「…あ!!」

店員さんがどこからか取り出したのは、紛れもなくアリスが家で無くしたスプーンそのものでした。
棚の上の方に置いてあって背の低い二人は気づかなかったようです。

「そっ、それです!!」
「ふふ、だと思った」
「この街で売ってるのはうちの店ぐらいだから…そのお友達もここで買ってくれたのかも、ね」
「わぁ…ありがとうございます!!」

満面の笑みを浮かべているアリスを見て店員さんもとても嬉しそうです。
ラッキーは遠巻きに二人の様子を眺めています。

「さっき選んでたスプーンはどうする?戻しとこうか?」
「んー、じゃあお願いします」
「うふふ、2つも買うと高いもんね」
「じゃあお会計で良いかな」
「あ、ちょっと待ってください」

アリスがラッキーの元に駆け寄りました。
一連の流れを観察していたラッキーはどことなくニヤニヤしています。

「(何かしら)」
「(ラッキー!!おなじの売ってたよ!!)」
「(見てたわ、あって良かったじゃない)」
「(でね、ラッキーは他に欲しいものある?)」
「(別に無いけど…)」

二人の様子を見ていた店員さんがやって来ました。

「あの…もしかして猫ちゃんと話せるの?」
「あ、いや、えっと…」
「それにしても可愛い黒猫だね、名前は何ていうの?」
「…ラッキーっていいます」
「へぇ、可愛い名前だね」

店員さんがラッキーのもとに来てしゃがみ込みました。
動物が好きなのか、眼が輝いています。

「えっと、ラッキーちゃんこんにちは!」
「(…どうも)」
「あれ、ご機嫌斜めなのかなぁ」
「可愛いね、何歳なのかな」
「(ふん、レディに年齢を聞くなんて失敬ね)」
「何歳かは分からないんです」
「そうなんだ」

ラッキーはちょっとだけ警戒しています。
一方の店員さんはうっとりしています。

「…いいなぁ」
「私ね、猫大好きなんだけどね…色々あって飼えないの」
「そうなんですね」
「ねえねえ、ちょっとだけ触ってもいい…?」
「んー、ちょっとだけなら多分いいと思います」
「(嫌よ)」
「ホント?ありがとう!!」
「(あ!ちょっと…)」

嫌々背中を撫でられつつ、ラッキーはじっとしています。
店員さんは大好きな猫が触れて大喜びです。
ラッキーはむすっとした様子でアリスのほうを睨んでいます。

「はぁ、猫って良いなぁ」
「(あのねえ、もう満足したでしょ)」
「ラッキーはとってもお利口さんなんです」
「(…あなたもお利口さんになって欲しいものだわ)」

満足したのか店員さんが立ち上がりました。
ラッキーはぶるぶると体を震わせています。

「ありがとうね、お礼にちょっとだけおまけしちゃうかも」
「え…良いんですか?」
「(これだけでおまけしてくれるだなんて、人間は甘っちょろいわね)」
「ふふ、じゃあレジにどうぞ」

会計を終えて二人は店を出ました。
ラッキーは相変わらずどこかむすっとしています。
アリスはご満悦と言ったところです。

「スプーン売ってて良かったね!!」
「あのねえ…私が知らない人間に触られるの嫌いって知ってるでしょ」
「でもおまけしてくれたよ?」
「そうじゃなくて…」

アリスは近くのベンチに座ると袋を開けました。
スプーンの他に何か小包が入っているようです。

「ふん、次はちょっとだけ引っ掻いてやろうかしら」
「あの店員さんなら喜びそうだね」
「…で、何くれたのかしら?」
「ん、何か袋みたいなのが入ってるよ」
「袋?」

開けてみると猫のおやつでした。
しかもラッキーの大好きなやつです。

「あ、見て…ラッキーの大好物だよ」
「!!」
「あの店員さん、分かってるね」
「ま…まあ、今日のことは多めに見てやろうかしら」

ラッキーはどうしてもそのおやつに目が行ってしまいます。
太るからだめだよ?と言われてたまにしか食べさせて貰えないのです。

「知ってるよ、これ早く食べたいんでしょ~」
「…うるさいわね」
「ラッキーこれ大好きだもんね、でもあんまり食べると太るもんね」
「あんまりバカにすると置いていくわよ」
「じゃあ食べなくていいんだ?」
「そ、それは…」

するとアリスがにやりと笑いました。

「ねえねえねえ、お手ってしてくれたら食べさせてあげる」
「嫌よ」
「ふーん、じゃあ今日は無しだね」
「あ、ちょっと!!」
「ラッキー太っちゃうもんね」
「たまにはいいでしょ、たまには」
「じゃあお手ってして!!」
「はい、ラッキーお手!!」
「…」

その後ラッキーがどうしたかは言うまでもありません。