時刻は早朝の3時。
雨の中私は非常階段を登っていた。
もう思い残すことなんて無いし、私が居なくなっても悲しむ人なんて居ない。
いや…実際には居るんだろうけど今の私にはそんなのどうでもいい。
いつ、どこで、どうやって…なんてのは毎日考えていた。
あそこが良いかな、いやでもどうやって登るんだろう?
あそこも良いな、いやでもなんか景色が悪いな。
最終的に見つけたのは、とある高層マンションの裏口。
なぜか鍵の掛かっていない非常階段を今私はこうしてぜえぜえ言いながら登っているというわけ。
今日は朝から雨が降ってて、ここまで来るのに傘なんてさしてない。
持ち物は家の鍵とスマホだけ。
もうこの世から居なくなるんだからどうでもいいことだけどね。
そうこうしているうちに屋上にたどり着いた。
算段通り、私が死ぬには最高の場所だった。
誰も居ないし、ここから飛び降りたらまず失敗はしないだろうね。
何より景色が良い。
端に寄って行ってちょっとだけ足元を見下ろす。
殆ど走っていないけど、通り過ぎる車があんなにちっちゃく見える。
あーあ、免許欲しかったな。
もしお金持ちで幸せで彼氏とか居て車があったら色んなところに…なんて考えてみる。
私はどこで人生を間違えたんだろうね。
ちょっと深呼吸してから、数歩後ずさりした。
これからこの世に別れを告げるっていうのに、恐怖とか悲しみとかが一切無いのって不思議だね。
「これから死にまーす」って連絡できる友達なんて居ないし。
家族はどうでもいいし。
自分でも驚くほど平静を保っている。
なんとなくスマホを取り出す。
時刻は4時ちょっと過ぎになっていた。
もう使うこともないので、電源を切ってポケットにしまった。
あたりは真っ暗でお月さまは出ていない。
最後に満月を見たのはいつだっけ。
いつか月に行って見たかったな…とどうでもいい考えが頭をよぎる。
今の私は誰にも見られていない。
何でも出来そうな気分になった。
することなんて無いけどね。
遠くから救急車の音が聞こえてきた。
生きるのって大変だね。
私が発見された後は救急車に載せられるのかな?
後のことなんてどうでもいいけど。
「さて、と」
私は深呼吸した。
早くしないと朝が来ちゃう。
明日は学校だね。
一番景色の良い方向を選ぶ。
暗くて良く見えないけど、足元の通りには多分誰も居ない。
目を閉じて呟いた。
「さよなら」
「さよなら」
その他