こんぺいとう

これの続きになります。



アリスは机に座って、この前公園でお姉さんに撮ってもらった写真を眺めていました。
ラッキーの言う通り、いつになく緊張して変な顔をしています。
急に恥ずかしくなって写真をぱたんと伏せました。

「もう!ラッキーが居ないのが悪いんだよ?」
「…何か言ったかしら」

ぴちゃぴちゃと水を飲んでいたラッキーが振り返ります。
独り言を全て聞いていたようで、どこかにやにやしています。

「この前のお姉さんにお礼しないと」
「へぇ、急にどうしたのかしら」
「だって優しくしてくれたんだもん、また来ないかなあ…」

机の上の鉛筆を指で転がしながら言います。
するとアリスは急に思い立ったようです。

「ちょっと公園に行ってみようかな」
「もちろん一人で行くのよね?」
「え!!」

ラッキーが意地悪そうに言いました。

「ら、ラッキーも来てよ」
「急に猫が付いてきたら驚くんじゃないかしら」
「そんなことないよ、きっと『わぁ、かわいい~』ってなでてくれるよ?」
「別に撫でてもらわなくてもいいわ…」
「いいからラッキーも来て!!」

むりやり押し通されてしまいました。
どうせこうなるんだろうなぁ、と分かっていたラッキーは苦笑いしています。

「準備するから待っててね、先に行ったらだめだよ?」
「はいはい、待ってるわ」



しばらくして二人は家を出ました。
雨が降りそうな空をしていたので、アリスはお気に入りのレインコートを着てきました。
ご機嫌なアリスを横目にラッキーはのそのそと付いていきます。

「~♪」
「なによ、その鼻歌…」
「ラッキーとお出かけするのが嬉しいんだもん」
「それより、この前の人…今日も居るのかしら」
「うーん、どうだろうね~」

意味もなくフードを被っています。
転んで傷が付いても、ずっとお気に入りです。

「もし居たら、私はどこで何してたらいいのかしら」
「ラッキーも来るんだよ?」
「…あまり知らない人に近づきたくないわ」
「大丈夫だよ、優しい人だったもん」
「もうちょっと警戒心を持ったほうが良いわよ」
「ラッキーが居るから大丈夫だもんね」
「…」

しばらく歩いて、二人は公園に到着しました。
咲いているものも置いてあるものも、この前と特に変化はありません。

「で、この前の人は居るかしら」
「んー…」

ぐるっと一通り回ってみましたが、お姉さんの姿は見当たりません。
ちょっとだけがっかりした様子でアリスが言います。

「今日は居ないみたいだね」
「ま、あなたと違って暇じゃないってことね」
「ラッキーも暇なくせに!」
「ふふ、どうかしらね」

アリスはなんとなく、ふらっと近くのベンチに座りました。
相変わらずの曇り空ですがしばらく雨は降りそうにありません。
着てきたレインコートの袖をもぞもぞ触っていると、ラッキーが横に座ってきました。



「ねえ、ラッキーはなんで黒いの?」
「…知らないわよ、そんなの」
「この前ね、真っ白なねこを見たんだよ」
「そりゃそうよ、猫は黒だけじゃないもの」

退屈そうなラッキーが毛づくろいしながら続けます。

「じゃ、白のほうがいいってことかしら」
「だって真っ暗だとラッキーがどこにいるか見えないもん」
「私は黒のままでいいわ…」

アリスはなんとなく、指の先でラッキーの毛をつつき始めました。
すると突然後ろから声が聞こえました。

「こんにちは、久しぶりだね」
「わ!!」

振り返るとそこには、この前写真を撮ってくれたお姉さんが居ました。

「…あれ、どうしたのかな」
「お姉さんのこと忘れちゃったとか?」
「こ、こんにち…は」

アリスの心拍数がみるみる上がっていきます。
一方のラッキーは警戒心MAXです。
威嚇…とまではいきませんがお姉さんの様子を伺っているようです。

「ら、ラッキーも挨拶してよ…」
「良いわよ私は、どうせこの人には聞こえないんだから」
「もう!!」

お姉さんが不思議な様子でラッキーを見つめています。

「もしかして、ラッキーってこの猫ちゃんの名前かな」
「はい、そうです…」
「うふふ、可愛いわね」
「お姉さんね、猫大好きなんだ」
「…そうなんですか」
「うん、良いなぁ~可愛いなぁ~」

いかにもラッキーを触りたいのが伝わってきます。

「あの、ちょっとだけ触ってもいいかな…?」
「え!っと…ラッキーに聞いてみてください」
「うふふ、そうね」
「ラッキーちゃん、撫でてもいいかしら?」
「ふん、少しだけよ…」

もちろん、何と言っているかはアリスにしか分かりません。

「…なんて言ってるのかな」
「なでてほしいな~って言ってます」
「ちょっと、そんなこと言ってないわ」
「へえ、ラッキーちゃんの言葉が分かるんだ」
「ま、まあ…」

お姉さんがラッキーの背中を優しく撫でました。
猫の好きな所を知っているのか、しばらくするとラッキーが思わず喉を鳴らしました。
どこか幸せそうな顔をしています。

「あ、ラッキーがごろごろ言ってる」
「!!」
「お姉さんになでられて嬉しいんだ!」
「こ、これは…本能よ、本能」
「そっかあ、ラッキーはお姉さんのこと好きなんだ」
「うるさいわね…」

珍しく照れているラッキーを見てアリスが笑っています。
お姉さんはその様子を不思議そうに見ています。

「ふふ、仲がいいんだね」
「そういえば、今日は何をしに来たのかな」
「カメラは…持ってないみたいだけど」
「あ」

アリスは本来の目的を思い出しました。
ベンチから立ち上がって、服を整えました。
ラッキーはやはり幸せそうな顔をしています。

「お姉さんにお礼をしに来たんです」
「お礼?何の?」
「…この前、カメラで写真撮ってくれたお礼」
「あぁ、そういえばそんなこともあったね」
「ちょっと待ってください…」

かばんに手を入れて何やらごそごそと探しています。
ラッキーはもっと撫でてほしかったのか、お姉さんのほうを見つめています。

「何渡すつもりかしら」
「んーっと」
「…あった!」
「これ、どうぞ」



アリスはお姉さんに、こんぺいとうが5個入った小袋を手渡しました。
カラフルな見た目でいかにもアリスが好きそうなのが分かります。

「わ、いいの?」
「おいしいから、よかったら食べてください」
「うふふ、ありがとうね」

お姉さんはこんぺいとうを大事にポケットにしまいました。
それにしても終始にこやかなお姉さんです。
アリスのことをよほど気に入っているのでしょうか。

「…そういえば、あなたの名前を聞いてなかったな」
「お名前はなんて言うの?」
「アリスです」
「そっか、じゃあアリスちゃんって呼んでいい?」

するとラッキーがひそひそ話をしてきました。

「ん、どうしたの?」
「ラッキーちゃんって呼んでいいだなんて、私は一言も言ってないわ」
「じゃあなんて呼んでほしいの?」
「…べつに」

どこか不満そうな顔をしたラッキーが呟きました。
ラッキーもお姉さんにもっと構って欲しかったのでしょうか。

「ラッキー、そろそろ帰ろっか?」
「…そうね」

お姉さんにさようならを言って、二人は帰路に付きました。

「ふふ、また会おうね…アリスちゃん」
「ラッキーちゃんもね」

家に着くなり、アリスはそのままベッドに寝転がりました。

「あーーーー!!緊張した!!」
「言わなくても分かるわ、そんなの」
「でも、会えてよかった」
「…そうね、お礼も渡せたじゃない」

ラッキーもベッドに登ってきました。

「それより、はやく着替えたらどう?」
「ねむくなってきちゃった~」
「その格好で寝るつもりかしら」
「ラッキーかわりに着替えて~」
「いいから…ほら」

しばらく足をばたばたさせると、おもむろにベッドに腰掛けました。
すると突然、アリスがラッキーの背中を撫で始めました。

「なでてるのにごろごろ言わないね」
「…下手だからじゃない」
「やっぱりあのお姉さんが好きなんだ!!」
「違うわ、いいから着替えたらどうかしら」
「ごろごろ言うまでなでてあげるね!!」
「…」

今日も二人は仲良しです。

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