「…あの」
「なあに?」
「いつまで起きてるつもり?」
珍しくアリスが夜ふかししています。
明日お出かけするからわくわくしている、といった訳ではありません。
単にまだ眠くないみたいです。
「今日はね、まだ眠くならないの」
「いいの?あのセリフ言っても」
「ラッキーがいるから大丈夫だもんね」
「じゃ、私はそろそろ寝ようかしら」
「だめだよ、わたしが寝るまで起きてないと」
「…なかなか酷ね」
かくいうラッキーも珍しく今日はまだ眠くないみたいです。
ベッドの上で本を読んだりしてごろごろしているアリスに付き合ってあげています。
寝そべっているアリスの背中になんとなく乗ってみたり。
「…あの」
「なあに?」
「おばけなんて、本気で信じてるのかしら」
「そっ、それは…そうだけど」
「だって実際に見たことあるの?」
「ないけど」
「ほら」
「…そんなの見たくないけど」
「不思議ね、見たことないのにいるって信じて怖がってるの」
「だって、怖いのは怖いの」
「…ま、いいけど」
アリスはおばけが大嫌いです。
夜に起きると、ラッキーが付いてこないと一人でトイレに行けません。
早く寝ないとおばけが出るわよ…と諭されるのがお決まりですが、今日は一体どうなるのでしょうか。
「…良いこと思いついちゃった」
「どうしたの」
「ラッキーちょっと来て」
アリスがおもむろに窓際に向かいました。
ラッキーもその後ろについていきます。
「これ見て」
カーテンを開けて窓の向こうの空を見上げると、一面の星空が広がっています。
二人にとっては見慣れた景色ですが、今日は一段と空気が済んでお星様が輝いて見えます。
「あのね、流れ星が見てみたいなぁって」
「…そんなのって滅多に見れない気がするわ」
「ラッキーは見たことある?」
「無いわよ、そもそもここらへんで見れるものなのかしら」
「…ラッキー、ちょっとだけ外に出てみない?」
普段なら『早く寝ないと~』のフレーズが炸裂するはずです。
しかし今日のラッキーはどうやら乗り気みたいです。
天気も良いし、流れ星が見れるような気がしたのです。
「ま、たまには夜ふかししても怒られないわよね」
「やった!!」
「その代わり、帰ったらすぐ寝るって約束してよね」
「うん」
「夜ふかしすると…身長伸びないわよ」
「すぐそこだもん、遅くならないよ」
アリスはパジャマのまま、薄いコートを羽織いました。
ラッキーはちょっとだけ毛づくろいしています。
二人ともちょっとしたお出かけ気分です。
「ラッキー、絶対離れないでね」
「そっちこそ、勝手にどこか行ったら駄目よ」
「わんちゃんの散歩みたいにひもがあったら良かったね」
「嫌よそんなの、恥ずかしいわ」
そっとドアを開けると心地よい風が吹き込んできました。
うっすらとした月明かりで照らされて、明かりが無くても大丈夫みたいです。
目指すのは歩いて5分ほどの、ちょっと開けた場所です。
見上げると満点の星空を一人…いや、二人占めという算段です。
「それにしても、今日は本当にたくさん星が見えるわね」
「あのお星様が一番キラキラしてるね、綺麗だな~」
「キラキラ…どれのことかしら」
「あれだよ、あのちっちゃくて赤いやつの隣」
「飛行機じゃないの、あれは」
「…ほんとだ」
暗い夜道でもラッキーが居ると安心みたいです。
ラッキーも普段と違った時間に出るのでどこか楽しそうにしています。
そしてあっという間に目的地に到着しました。
当然ながら誰も居ないので、綺麗な星空を思う存分堪能できそうです。
「…で?」
「流れ星っていうのはどうやったら見れるのかしら」
「お星様が流れてくるまで待つんだよ」
「地味ね」
「流れ星は気まぐれだからね」
「じゃ、しばらく天体観測ね」
静かな時間が過ぎていきます。
街からだいぶ離れているので、虫の音やフクロウの鳴き声以外に聞こえてくるものはありません。
二人の頭上に広がっているのは、雲一つない文字通り満点の星空です。
果たして念願の流れ星は見れるのでしょうか。
「ねー、ラッキー見えた?」
「まだよ」
「…っていうか」
「二人とも同じとこ見つめてるんだから、流れたらあなたにも見えるはずよね」
「あはは、そうだね!」
ここに来てから30分ほど粘ってみましたが、流れ星はまだ見えません。
しばらくして、少し離れたところに居たラッキーがアリスの足元に寄って来ました。
「ん?どうしたの?」
「…ちょっと寒いかも」
「確かに…気温が下がってきたのかな」
「あなたは良いわね、暖かそうなもの着てて」
「おいで、だっこしてあげるね」
アリスは草むらに座り込んで、その膝の上にラッキーが丸まっている状態です。
さらに5分ほど経ちましたが、流れ星は一向に見えません。
気がつくと空にほんの少し雲が掛かっています。
「…残念だけど、今日は諦めよっか?」
アリスがぼそっと呟きました。
しかしラッキーの返事がありません。
「ラッキー?」
もしかして居なくなったのでしょうか。
一瞬焦って自分の膝元を見ると、ちゃんとそこで丸まっていました。
どうやら寝ていたみたいです。
「あ、寝てるし」
「…!!」
「ラッキーおはよう…って言うか、まだ夜だけど」
「…寝てたわ」
「わたしもなんだか眠くなってきたかも」
「そろそろ…帰りましょ、寒いし」
「そうだね、またいつかチャレンジすればいいもんね」
アリスはいかにも眠そうなラッキーをだっこしてゆっくりと立ち上がりました。
薄暗い中、忘れものしてないか確認している時でした。
空の中央に一筋の光がほんの一瞬流れて消えました。
「…あ!!」
「わ、ラッキーどうしたの?」
「さっきの…流れ星よね、アリス見えた?」
「えっえっ、見てないよ…?」
どうやらラッキーしか見ていなかったようです。
アリスはとってもがっかりしています。
「良いなぁ、ラッキーは運が良いんだ」
「…なんか悪いわね」
「あ、願い事できた?」
「願い事…そんなのあったわね、すっかり忘れてたわ」
「えー、もったいない!!」
アリスは何を願いたかったのでしょうか。
ラッキーはそんなこと興味無しといったところです。
「今日は遅いから、またいつか来ようね」
「そうね、私だけ見えたのもなんだか申し訳無いし」
「…じゃ、行こっか」
また来るね、と呟くとアリスは再び歩き始めました。
来た時より暗くなった気がして、ちょっと怖くなったアリスはやや早歩きしています。
ラッキーは腕の中でじっとしています。
「到着!!」
「ふふ、ありがとね」
二人はすっかり眠くなったのか、一目散にベッドに潜り込みました。
「ラッキーは良かったね、流れ星が見えて」
「そうね…思ったより派手じゃなかったというか」
「そうなんだ」
「だから良いのかもね、儚くて」
「…じゃ、ラッキーおやすみ」
「ふふ、おやすみなさい」
しばらくするとアリスの寝息が聞こえてきました。
しかしラッキーはまだ起きていたみたいです。
「…願い事」
「そんなの、決まってるじゃない」
寝ているアリスにくっついて丸くなりました。
「この子とずっと一緒にいられますように、って」
ラッキーは目を閉じると、幸せそうに眠りにつきました。
流れ星
アリスとラッキーの日常